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ナイトクローラー

2年か3年前の秋頃、僕は24時間営業のスーパーへ向けて歩いていた。あたりは真っ暗で、おそらく深夜の0時は過ぎていたろうと思う。なぜそんな時間にスーパーに行こうと思ったのかは覚えてはいないが、家に食べるものがなくなってしまったとか、ただ歩きたい気分だったとか、おそらくそんなところであろう。

深夜は車もあまり通らず静かなので、散歩には快適で気持ちがいい。辛うじて足元を照らせる弱々しいペンライトを頼りにポツポツと歩いていると、間もなく目的のスーパーが見えてきた。周囲に灯りはほとんどないため、その建物から漏れる光は一段と輝いていた。

スーパーの近くには他にも敷地を共有するいくつかの店があるのだが、そのうちの一つであるコインランドリーの中のなんてことのない光景が僕の目を引いた。

客は一人だけであった。服は上下ともベージュか薄い黄色だったか。色の薄いセーターか何かは着ていたと思う。40を過ぎたくらいの女性であっただろうか。見ただけではよく分からないが、三人称がなければ不便なのでとにかく女性であるとしておこう。

深夜のコリンランドリーにて彼女は一人きりであった。手には携帯電話も文庫本の一つも持たずに、ただ真っ白い椅子に座って、何をするわけでもなく回り続ける洗濯物を茫然と眺めていた。ひどく疲れていたのだろうか。それとも洗濯機がぐるんぐるんと回る様を眺めるのが好きで仕方がないのかもしれない。何ごとをも語らぬあの表情は恍惚によるものであったか。

どうあれひどく寂しい光景であったが、それゆえに私は心惹かれた。
夜の闇をかき分け進んだその先で、孤独こそが美しいと知る。

英語でNight Crawler (直訳すると“夜を這うもの”)というとミミズのことらしいが、俗に夜型の人間のことをそう呼ぶこともあるらしい。そういえばさらに数年前には友人とそんなタイトルの映画を観に行ったな、などとこれを書きながら思い出したりした。

深夜の勢いで書いたので多分後で恥ずかしくなるな。まあそれもいいか。
それではまた。


2021年末 瀬戸内の片隅のアパートにて

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